降ってくる声
 これは本当。いつも通り七時に起きて、朝ご飯を食べた。

 顔も洗って、歯も磨いたけど、いまだに部屋着ですっぴんのまま。そうしたら、圭太と同じベッドで朝を迎えたと自分に思いこませることができるような気がして。

 生まれて二十年、家は隣同士、両親だって仲がいい――けれど、私たちはただの幼なじみ。

 話しているうちに、少しずつ圭太の声ははっきりしてきた。
 これで私の役目はおしまい。


「じゃあ、切るよ? 約束の時間に遅れないように出かけなさいよね」


 残念だけど、時間切れ。
 電話を切ろうとしたその時、いきなり部屋の扉が開く。
 私は悲鳴を上げて、あわてて布団を頭の上まで引っ張り上げた。


「何で? 起きられないから電話しろって――」
「おばさんが、おまえが休みの日もごろごろしてるから連れ出してくれって言うんだよ。おばさんの頼みなら断れないだろ?」


 にやりとする圭太。左手の携帯を耳に当てたまま。


「おばさんの言うとおり、まだ寝てんだな。三十分後には出るからな、急げよ」


 私の悲鳴にはかまわず、彼は強引に布団をはぎ取る。

 そして、今度ははっきりした声でおはよう、が降ってきた。

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