声を聴かせて。
「じゃ、私は先に……」
床に投げ出していたカバンを掴むと、私はその場から立ち去ろうとする。
「…待てよ」
だけど次の瞬間、彼に腕を掴まれ引き寄せられた。
気付いたら私は、彼の胸の中。
「…お前、またヤリ逃げするつもりかよ」
「なっ?!そ、そんなんじゃ…」
「俺の話も聞かずに、言いたいこと言って、ハイおしまい?
明日からは今まで通りに戻るだ?
ここまで来て、なんで何もなかったことにしようとすんだよ」
「だ、だってチーフは…」
…彼女がいるから。
あんな綺麗な彼女に、私が敵うわけなんてないから…。
私は彼の胸の中で、その言葉を飲み込んだ。
こんなこと言ったって、余計惨めになるだけだから…。
「……確かにお前が見たのは、俺の彼女だった女だよ」
「え…」
“だった”って……
「別れたんだ、1ヶ月くらい前に。
てゆーか、フラれたんだよ。
もともと何となく付き合い始めた感じだったし、俺が仕事ばかり優先して不満なことも多かったみたいだし…
極めつけはコレだ。
“アンタ、私より他に好きな女いるでしょう”ってさ」
私は身体を離して、彼の顔を見上げる。
彼は可笑しいのか笑いながら続けた。
「女の目ってすごいのな。
俺自身が気付いてない心まで見抜いちまう。
…そう言われて、初めて気付いた。
俺の中には、いつのまにかお前がいたんだって」
そう言うと彼は、私の頭に手を乗せるとくしゃっと撫でた。
「……お前の、声が聴きかったんだ。
どんなことを考えて、どうしたら笑ってくれるのか…
お前が、俺のことどう思ってるのか…
なぁ、聴かせてくれよ」
「……っ…」
涙が溢れた。
それはとめどなく、私の奥から溢れてくる。
まるで、私の胸に渦巻く欲望を流し出すかのように…。