S(エス)
 
あたしの彼氏の背中には大きな稲妻の形をした傷がある。

あたしはそれを指でなぞるのが、たまらなく好きだ。

その瞬間が最も幸福で満たされるとき。

ぼこぼことした傷に指先が触れた瞬間に電気が走る。背骨の一番下にある小さなハートの形をしたホネの辺りから脳に直接覆い被さるようにじわぁと痺れを伴いながら全身にクル感じが、たまらなく好きだ。

シャツの上から触るのも、もどかしくたまらない。直接さわったら、どうにかなってしまいそうだ。

なぞり終えると、また最初から始めてしまう。

少しだけ、いびつにカーブしているそれを、あたしは何度も、何度も、小さく「エス……、エス……」と声に出してなぞる。

密着正常位でセックスをしている時でも、全神経を指先に集中させて、ゆっくりと傷口をなぞる。

見えないものだから、余計にたまらない。


さらになぞるほうに意識を集中する。


意識を指先に集中すればするほど


皮膚。


クリトリス。


ヴァギナ。


彼の体温。


遠くに逃げて、切り離れてゆく。


やがて、あたしはあたしからも切り離れることになる。

スルリとあたしの抜け殻を脱出し、彼氏との正常位からも抜け出すと俯瞰した位置から、あたしと彼氏、2人のセックスを眺めることになる。

体を持たないあたしは先をとがらせて、傷にゆっくりと飛び込む。

沿うように溶けこみ同化させるように、泳ぐ。

終点につけば体をねじるようにしてターンし、息を吸い込んだら、また、ゆっくりと頭から飛び込む。

どぷり。

水しぶきをなるべくたてないように、何度も、Sの字を暗闇のプールで繰り返す。


「なぞりすぎるのもいい加減にしろよ」と、彼氏は、こそばがり身をよじったりするものだから、その途端に急速に醒めたあたしはあたしのなかに引き戻される事になる。


肉体を持ったあたしは、ただ現実を受け止め続けることになる。

口臭、体温、汗が滴り落ちるのとか、ただ肉の塊が出たり入ったりするのだけを感じる。

急に連れて戻された瞬間にあたしは、気持ち悪くなって露骨に嫌な顔をしてしまったらしく、「おい!いったい傷とこの俺の、どっちが大事なんだよ!」という冗談にも


「傷」と即答。


あたしは出来る事ならクリトリスを肥大させてバックで肛門を突きながら、その傷を眺め、なでまわしたい。


なでくりまわしたい。



指で、唇で触れ、そして舌で。



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