【密フェチ】アフターシェイブローション
※※※
 国際的な大規模プロジェクトが無事に完了した。
 そのことで気分が開放的になっていたのかもしれない。
 場所が砂漠の大富豪たちが集う豪華な超高層ホテルだった、からかもしれない。

「罰当たりな異教徒同士で、こっそり乾杯しよう」

 思いがけず今回のプロジェクトの件で再会し、一緒に仕事をした「初めての男」の誘いを断ることなど、私には出来なかった。

「ええ。でも、大切なお祝いの日にって、怒られるかしら?」
「スカイラウンジは異教徒専用だからアルコールもOK。冷えたビールもソーセージもバッチリさ」
 
 ガラス張りのエレベーターは、二人を乗せ夜空を上へ上へと突き進む。下界は国王陛下の誕生祝いで大賑わい。巨大な宴会場で、アルコール抜きの大規模なパーティーが開かれている。

「ほら、さっき髭を剃ってきた。痛いって言われたのを思い出してね」
 
 もう、五年、いや六年前になる。髭が濃いたちのこの人は、夕方には剃り跡がプツプツした感じになるのだ。その状態で頬ずりされた私は「痛い」と文句を言った。 その時もほのかに香ったアフターシェイブローション……懐かしい。

「わかった。頬ずりの前、キスの前、愛し合う前には髭を剃るよ」

 あの時、そんな風にこの人は言った……

「口髭を生やしても似合いそうね。ちょっと、見てみたかった気もするわ」

 私は思わず、すべすべになった顎から唇のあたりに触れた。完璧な剃り跡だ。男は私の手をごく自然につかみ、体を抱き寄せた。ああ、同じローションの香りだ。謎めいて複雑で、爽やかで、切ない。
 
「君を第四夫人に迎えたいって言った王子様は、立派な口髭が生えてるね。ああいうのが好み?」
「まさか」
「口髭より、第四夫人の方が気に入っているように見えたんだけどな、まあいい」
「気の所為よ。有り得ないから」
「口髭が? 第四夫人が?」
「どっちもよ」
「ホントに?」
「疑い深いんだから」
「僕が何を言っても嘘だって決めつけられたお返しには、そのぐらい、仕方ないと思わないか?」
「ごめんなさい」
「別に謝らせたいわけじゃない。でも……人の話は最後まで、ちゃんと聞くように」
「はい」
「何だか今夜は素直だね」
「きっと……この香りのせいだわ……」

 昔私がプレゼントしたのと同じ、アフターシェイブローション。
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

【密フェチ】長い器用な指

総文字数/1,132

恋愛(オフィスラブ)1ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop