黒い翼


香りを辿ると、着いたのは保健室。


今週は出張で養護教諭はいない。


入り口には靴が二足あった。


彼女のものだと思われる黒いスニーカーと、男用とみられる赤いスニーカー。


「………………………」


入ると、見覚えのある黒髪の男がベッドに彼女を寝かせ、屈んで何かをしていた。


息を飲む音が聞こえる。


恐らく、髪を分けて顔を見たのだろう。


ならばちょうど良い。


「あとは任せてくれないかな」


僕の存在には気づかなかったようで、彼は身を翻すように振り向き、僕を見た。


……あぁ、君か。


確か名前は紫葵。


僕と名前が被っていて、彼女の前の恋人だ。


「君は戻っててなよ。あとは僕がやるから」


「お…おぅ……」


彼は自分がこれ以上することがないことを知っていた。
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