微かな明り

「香野?残業か?」

私に気づいた課長の声に、鼓動が跳ね上がる。


「い、いえ、終わりました。城山課長…直帰の予定、では…?」

平静を装おうと頑張るけど、高鳴る鼓動で声がへんになりそう。
だって、いつもはきちんと綺麗に着こなしているスーツが、
今は違う。


ネクタイは緩めて、
シャツの釦は2つくらい開いている。

外の明りに、綺麗な鎖骨が少しだけ見える。


「ちょっと帰りがけに寄ったんだ」

「あ、忘れ物、ですか?」

「…そんなところだ」

少し、私から視線を外し、
また外の明りを見ながら答える。



「暗くないですか?電気、つけますね」

そう、スイッチに手を伸ばすと、


「いや、そのまま。あ、悪い。お前が嫌か」

「いえ、そんなことはないです」


薄暗い部屋は嫌じゃない。
かえってよかったかも。

これなら、課長を見る視線も、熱を帯びた私の表情も、

彼からは見えない。




< 2 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop