伊坂商事株式会社~社内恋愛録~


5月。

新年度がスタートし、やっと社内も少し落ち着きを見せ始めた頃。



「では、以上を踏まえた上で、各班長、それぞれ次回の企画会議に向けて取り組んでくれ」


企画課長の締めの一声で、各班の班長たちは一斉に息を吐いた。

長かった班長会議を終え、山辺もまた、疲労に笑みも持てないまま、ネクタイを緩める。



「山辺さん。少し、ご相談が」


声を掛けてきたのは、沖野だった。



前年までは、班長会議には紅一点・篠原がいたが、今は新しくできたマーケティング室の室長となり、代わりに沖野が新班長になった。

沖野とは因縁浅からぬ間柄だが、いちいちそんなことを言っていたら、仕事にはならない。


山辺は努めて人のいい笑みを浮かべ、「何?」と問う。



「今回の企画、合同でやりませんか?」

「……え?」

「どうせこの内容なら、どこの班も似たり寄ったりな案しか出さないはずです。だったらもう、一緒にやった方がよりよい企画が生まれると思いまして」


山辺はひどく驚いた。


班同士の対立が当たり前のこの企画課において、まさか『一緒に』とか『合同で』なんて言葉を聞くことがあろうとは。

山辺自身、考えてもみなかった提案をされ、怪訝に沖野の顔を見た。



「何か企んでるの? 俺と組んでまで手柄がほしい? 新班長さんはプライドも自信もないわけだ?」


沖野が何を考えているのかわからず、山辺の言葉は次第に挑発するようなものになっていくが、



「別に手柄とかどうでもいいですよ。興味ないです。ほしいならあんたのもんにすればいい。でも、この企画に関しては、合同でやった方がいいに決まってる」


自分は沖野という人間を見誤っていたのではないかと、山辺は思った。

懐も視野も広く、何より個人的感情を消して、仕事ために俺に頼み事までできるなんて、と。


さすがは次期課長候補だなと思う。
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