伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「山辺さんにとっても悪い話ではないと思いますけど」


沖野はダメ押しのような一言を付け加えた。


しかし、合同とは、これまたどうしたものか。

未だかつてない提案に、柔軟であると自負しているはずの山辺でさえ、いまいち踏み切れないままで。



「山辺くん!」


そこへやってきたのは、篠原だった。



「これ、頼まれてた商品の過去3年分の売り上げデータ。急げって言うから大変だったわ」

「あぁ、忘れてた。ありがとう、篠原」


山辺は受け取った書類に目を落とす。

緻密で、わかりやすくて、篠原らしい仕事ぶりに満足しながらデータを見ていたら、



「ねぇ、それ、次の企画会議の内容でしょ? ちょっと見せて」


代わりに山辺の手にある書類が奪われた。

篠原は書類をぱらぱらとめくりながら流し見し、



「またこういうのやるんだ? どうせどこの班も似たような企画にしかならないのに」


横から沖野もうなづいた。



「でしょ? だから俺は、山辺班と合同でやった方がいいと思ったんですけど」

「合同? あぁ、それいいじゃない。そうしなさいよ、山辺くん」


嫌がらせで言っているのか、それとも仕事のためなのか。

もちろん篠原が後者であることは山辺にもわかっている。


山辺は息を吐き、篠原の言葉を、元・企画課班長であり、現・マーケティング室長の意見として聞いておくことにした。



「わかったよ。じゃあ、協力し合おう、沖野くん」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


沖野に頭を下げられ、山辺は敵わないなと思った。

篠原が沖野を選んだ理由が少しだけわかったような気がして、だけど不思議ともう、悔しいという感情は生まれてはこなかった。
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