伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
午後8時。
ほとんどのフロアで電気が消され、すれ違うのは帰宅する人たちばかり。
当然、私はまだ例のものを見つけられてなくて。
「何でどこにもないのよ、馬鹿ぁ」
完璧に心が折れた。
もう嫌だ。
こんなの『仕事』とは呼べない。
社内を上から下まで何往復もし、床を這うようにして歩きまわってもないなんて。
「ギブアップしなよ」
振り向くと、宮根さんがこちらに歩を進めてきていた。
そして私の前で足を止め、
「俺、ずっと資料室にいたのにさぁ。何で電話してこないの? 一言、もう無理だから教えてください、って言えばよかったのにー」
まさか、普段は厳重に鍵をされている資料室にいたなんて。
っていうか、電話して降参宣言すればよかったなんて、思ってもみなくて。
私はへなへなとその場に崩れた。
「はい、これ」
宮根さんは、そんな私の顔の前に、青い封筒を差し出した。
表には、【超重要】と、でかでかと書いてある。
「俺の鞄の中以上に安全な隠し場所ってないでしょ。莉衣子ちゃんが素直に電話してくれば、すぐに渡そうと思ってたんだけど」
「……そん、な……」
そんなのってない。
私はついに、涙が溢れてしまった。