伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「宮根さんはひどいです」

「うん」

「これはいじめです」

「うーん」

「私もう会社辞めたいです」

「それはダメだよ。莉衣子ちゃんがいなくなったら、俺は何を糧に仕事すればいいの?」


何なんだ、この人は。

もう、わけがわからなくて、だからなのか、余計に涙が溢れてきた。



「宮根さんなんか大嫌いです」


ほとんど小学生の台詞みたいなことを、泣きながら言う私に、宮根さんは、



「とりあえず、ご飯行こうか」

「……はい?」

「ご飯。奢るよ」


今度は何の話だ。

と、きょとん顔の私。



「俺はね、莉衣子ちゃんが大好きなの。莉衣子ちゃんが俺に怒る顔も、呆れる顔も、困る顔も、全部好きなの」

「………」

「一生懸命なところも、仕事に手を抜かないところも、ひとりひとりの補佐をちゃんとしようとしてるところも、全部」

「………」

「だからね、俺とご飯に行こう」


全然、『だから』に繋がってないんですけど。



「今日は、無事に契約が取れた祝いってことで。付き合ってくれてもいでしょ」

「むぅー」

「美味しいもの食べて、美味しい酒飲んでさ。そんで、素直に俺に口説かれてなさい」


宮根さんは、無邪気に笑いながら、私の頭を撫でた。


諦めなのか、何なのか。

これが私の恋の始まりの記録。









END

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