伊坂商事株式会社~社内恋愛録~


中途採用で入社三年。

現在、企画課・篠原班で奔走中の俺。



「ありえなくない? 何で私の企画がボツなの? ねぇ、沖野くんもそう思うでしょ!」


年下の女上司・篠原班長は、イラ立ち紛れにフォークできゅうりを突き刺した。

俺は若干引き気味に、ずたずたにされたきゅうりを不憫に思ってみたり。



「聞いてるの?」

「あぁ、はい。俺もそう思います」

「でしょ、でしょ! 何で山辺くんの班の企画がよくて、私の班のがダメなのよ! 課長も何を考えてるんだか!」


企画課は、いくつかの班に分かれ、それぞれでアイディアをプレゼンし合う。

で、うちの班長は、特に山辺班をライバル視している。


よって、こういうことも日常で、



「ほんっと、ありえない!」


俺は篠原班長の愚痴を、適当に相槌しながら聞いてやることすら、仕事の一部と考えている。


そもそも、この、篠原 亜里沙は、社内の女子社員曰く、『頼れるアネゴ』で『理想の上司』で『美人を鼻に掛けない憧れの人』らしいけれど。

内情は、そんな素晴らしいわけじゃない。



「しかもさぁ、このB定食、何でトマト入ってんのよ。私トマト嫌いなのに」


言うなり、先ほどのきゅうり同様、フォークで残酷に突き刺したそれを、俺の皿に当然のように入れ、



「あげる。だから、そのシュウマイと交換してね」


さっさと俺の大好物を奪い去る始末。


まったく悪いと思わないところが、この人らしくはあるのかもしれないけれど。

俺は少し不貞腐れた。



「いい加減、トマト嫌いも山辺さん嫌いも治したらどうですか」
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