伊坂商事株式会社~社内恋愛録~


午後8時。



「やっぱり残業してましたか」


顔を向けた篠原班長は、資料片手に、今まさにおにぎりを頬張ろうとしていたところらしかった。

間抜けに開けた大口に、俺はちょっと笑ってしまう。



「だと思って、夜食、買ってきました」

「気が効くぅ」

「っていうか、班長、そんなもんばっか食わないでくださいよ。体壊しますよ」

「だって、今日中に反省点のまとめしときたいし。楽でいいよ、おにぎりは。邪魔にならないからね」

「だから、それがダメなんですってば。あんたもうすぐ30でしょ。いつまでも若くないんだし」

「うわー。今のは効いた。32の男にひどいダメージを与えられたわ」


大袈裟に、篠原班長は嘆いて見せる。

俺は無視して向かいに座った。



「手伝います」

「いいのに、別に。いつもいつも、私に付き合ったところで、サービス残業でしょ」

「ふたりでやれば早いでしょうが」

「………」

「っていうか、仕事なんてほどほどでいいんですよ」

「『ほどほどでいい』と思ってるくせに、どうして私を手伝うの?」


ずい、と顔が近付いた。

何でわからないんだよ、この仕事馬鹿は。


でも、俺は目を逸らし、



「あんたが倒れたら困るからですよ」


32にもなって、告白だとか、それこそありえない。

仕事上の立場云々もあるけれど、それ以前にこの年で今更そういう青臭い話は、思春期の頃以上にきついものがあるのだから。


篠原班長は頬杖をついて俺を見ながら、
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