伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「課長は次の課長候補を沖野くんでと考えてる」

「えっ」

「そのためにはまず、班長をやらせたいんだって。だから私がいない方がいいんだって」


沖野くんは少し考えるように沈黙を作った後、



「なるほどね。大体はわかりました」


沖野くんはペットボトルをテーブルに置き、私の横に腰掛けた。

そしてソファに深く背を預け、



「いいじゃないですか。あんた、マーケティング室の室長やりなさいよ」

「え?」

「そしたら俺らは結婚できるじゃないですか。違う部署になるんだし、ちょうどいいでしょ」

「……それ、は……」

「俺もまぁ、課長云々の話は、正直面倒だし、できれば回避したいところだけど。でも、そうなったら、あんたの『母』は認めてくれるわけだし」

「私のためにってこと?」

「俺自身のためですよ。あんたと仕事できなくなるのは不本意だけど、その代わり、あんた自身を失うことはなくなるんなら、それでいいかなぁ、と」


私は沖野くんに寄り掛かった。



「あんたがマーケティング室の室長になって、それでどうしても無理だと思ったら、辞めればいい。その時はあんたひとりくらい俺が食わせていきますよ」

「年上ぶっちゃって」

「年上の、男ですよ。これでも一応」

「そうね」


沖野くんは腕をまわして私の肩を抱く。


あったかいと思った。

いつも私は、こうやって、沖野くんに寄り掛かっているのかもしれない。



「俺はいつでもあんたの傍にいますから。それは忘れないでください」

「ありがとう。嬉しかった。私、頑張ってみようかと思う」


笑う沖野くんを見て、私も笑った。








END

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