くらげぷーる
パラオの女王
市営のクラゲプールは初めてだった。


ゴーグルに水色生地にストライプの三角ビキニといういでたちでコウはプールサイドにやってきた。
競泳界とグラビア界の狭間にいるようななんとも不思議な格好だ。


「あたし、秘密兵器あんの。」


コウが手のひらをそっと開くと陽の光を浴びた無数のアミノメがキラキラと輝いていた。


「これもってるとね、クラゲがたくさんよってくるの。ワキにもあげるね。」


と言ったかと思うと、あたしの手のひらは得体の知れない微生物でいっぱいだった。

プールでクラゲにエサを与えることはもちろん禁止。

だけどコウとあたしは少しでも彼らに近づきたかった。

あたしはアミノメがこぼれないようそっとプールに入った。

水の流れにまかせて泳ぎ、監視員の視覚まで進むと、コウは水の中に顔をうずめて手を開いた。

白いアミノメの周りにいくつかのクラゲがやってきて、コウを七色に包んだ。
コウは水中に潜り込んだまま、しばらく顔を上げなかった。
コウの茶褐色のセミロングの髪がふわふわと水の上を漂っている。


「コウ」


あたしが呼ぶと、にっこり笑ったコウが頭を出し、


「ワキ、早く潜りなよ。アミノメいなくなっちゃう。」


と言った。

水の中ではほんわりとクラゲが漂っている。

あたしは鼻のてっぺんからゆっくりと顔を水につけ、体を縮めていった。

水中でそっと手のひらをあけるとフワフワとアミノメがあたしの手から離れて行った。

数々のクラゲが寄ってきてアミノメを食べ始めた。食べたとゆうより体の一部へと吸収していった。

見ているうちに、あたしはここのクラゲたちの中心にいるような気がしてきた。
そして、ここは遥か遠くに続く大西洋であるような。


アミノメひとつで、あたしはクラゲの女王になったのだ。


帰り際にコウに言った。


「マテラ島に住んで女王になるのも悪くないよね。」


コウは大きな目をぱちくりさせて、きょとんとした顔をしていたが、そのうち可愛らしい八重歯を見せてケラケラと笑った。


「明日は何しよっか。夏休みは長いよ。」
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