いきなり王子様


ふと、ベッドサイドに飾っている家族写真を見ると。

私をとにかく甘やかし、でれでれな両親と兄貴二人が私の周りを取り囲むように笑っている。

私の就職祝いで旅行に行った時の写真。

とうとう私も独り立ちすることになって、寂しいと号泣していた父さんがようやく泣き止んだ時に撮ったもので、赤い目をした父さんは、拗ねたような笑顔。

それでも笑顔で。

私はみんなに愛されて、それを当然だと思って生きてきた。

竜也も、家族のことを話す時には優しい笑顔だったから、きっと家族関係も良好なんだろう。

だから私はわかる。

家族に愛される幸せを知っているから、竜也は美散さんを大切にしてきたんだろう。

美散さんのつらい日々を目の当たりにして、どうしても、手を差し伸べたかったんだろうけれど、それでも結婚するまでの気持ちは生まれなくて。

多分。

美散さんが幸せな結婚をするまでは、自分の選択が正しかったのかどうかも、悩んでいたんだろうと思う。

美散さんと結婚すれば良かったのかと自問自答したはず。

私の勝手な憶測だけど、この何日かを密に二人で過ごしたせいか、竜也の真面目で頑なな性格から、それは簡単に想像できる。

「それにしても」

竜也との距離が突然縮まって、突然付き合うことになって、その先にも進んでしまって。

竜也と美散さんのつらい繋がりに私も心を痛めて。

久しぶりの恋愛は、あまりにも濃くて忙しくて、どこかに逃げてしまいたい。

逃げたところで、行先はきっと竜也の所なんだろうけれど。

それが悔しくて、なんだか照れくさい。

どこまで私は竜也に毒されてしまったんだろうか。

はあ。急激な自分の気持ちの変化についていけなくて、どうしようもない。

明日にはきっと少しは気持ちも落ち着いているはずだとどうにか自分を納得させて。

明日にでも電話して、早く竜也の声が聞きたいと思いながら。

私はようやく眠りついた。



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