いきなり王子様


その後すぐ、井上社長はお父さんの後継者として社長職に就き、会社の経営に携わることになったらしい。

それまでは高校の先生をしていたけれど、志し半ばで退職。

『この春卒業させた生徒達が、新聞で俺の顔を見て驚いていたらしいけどな』

ははっと乾いた声をあげた井上社長は、

『奈々ちゃんが、もしも竜也とこの先一緒にいるのなら、美散の存在は必ずついて回る。
美散を大切にしている竜也を受け入れられないのなら、つらい恋愛になると思うけど。
竜也にとっては両親を大切に思うのと同じ位置に美散はいると思うんだ。
だから、俺らの家の問題で嫌な想いをさせた竜也を、見捨てず受け入れてやってほしいんだ』

まったく揺れる事のない瞳の奥からは、井上社長がそれを強く望んでいるとわかる。

きっと、今日私にわざわざ会いに経理部まで来たのも、そのことを伝えたいがため。

竜也が大好きで、彼の幸せを願って。

言いたくもないお家事情まで話してくれた。

美散さんがお父さんから縁を切られたこと、知らなかったとはいえ、私が
『お嬢様』だなんて言ってしまって、竜也が気を悪くしたのも納得できる。

そして、二人が交わす視線に強い絆を感じたのもわかる。

二人の関係は、特別だから。

そして、私には入り込めない強い関係を実感させられた。

そして、思い出すのはやっぱり三橋さんから言われた言葉だ。

私に惚れていても、きっと美散さんは『大切な人』であって、それはこの先も変わらないんだろう。

そして、竜也自身も苦しい思いをしてきたのに、美散さんを見離さずに彼女の幸せを願っている。

恋愛云々の気持ち以上の竜也の大きな懐をみせつけられた気がして、更に更に。

「これ以上、竜也に惚れさせないでよー」

思わず呟いてしまうほど、私の気持ちは竜也にぐんと掴まれた。


< 203 / 228 >

この作品をシェア

pagetop