いきなり王子様
一瞬間があいた意味を、ちらりと考えた。
「俺だって、他に好きな女がいた?それとも付き合ってる女がいた?」
完全に目が覚めた私は、明らかに意地悪な口調で。
竜也の過去に嫉妬、だ。
『……俺だって、いつか本気で惚れた女と結婚したいって思ってたって、言おうとしたんだけど?』
「え?あ、そ、そうなんだ……」
『まあ、これまで誰とも付き合っていなかったなんてことは言わないけど。
結婚したいほど本気になった女はいなかったな』
「へえ……」
『奈々に負けないほど綺麗な女もいたし、それなりに楽しい恋愛をしていたから、不満は感じなかった』
「……もういいよ、わかった。竜也は今でも王子様って言われるほど魅力のある男性だから、そりゃもてるよね。
美散さんにこだわらなくても、ちゃんと女の人がたーくさんいたんだよね」
半ばヤケになった乱暴な口調で話す私に、竜也はくすりと声をあげた。
『最後まで聞けよ。それなりに楽しい恋愛で、不満はないってことは、恋愛を心の底から楽しんでいるわけではなくて、満足もしていないってこと。
好きだって言われて付き合って、で、それだけ。
未来につながる関係になった女はいなかったから、奈々がヤケになる理由もない』
竜也って、これまでどんな恋愛をしてきたんだろう。
心の底から恋愛を楽しんでいなかったとさらりと言えるなんて、どこか冷たくて、なんて男だと、思わなくもない。
これまで付き合ってきた女性に対して失礼だ。
『美散とは、付き合うなんて関係でもなかったし、単純に気が合う仲間。
やすと付き合っているのをずっと見てきたし、結婚するまでの葛藤も間近で共有してきたから幸せになって欲しいって気にかけてるけど。
奈々が彰人さんに何を言われたのかは謎だけど、とにかく気にするな。
俺が本気で好きなのは、奈々だけだから』