いきなり王子様

『お姫様』と最初に言われたのは、幼稚園の頃だったと思うけれど、当時の記憶は曖昧でうっすらとしか覚えていない。

強い印象が残っていないというのは、さほど嫌な思いをせずに過ごしていたんだろうけれど、小学校に入った途端に与えられた周囲からの先入観が、その後の私の性格に大きな影響を与えた。

歳の離れた兄が二人いる私は、生まれた時からずっと家族からの愛情をたっぷりと受けて、それこそ『蝶よ花よ』の状態で育てられてきた。

ひたすら『奈々はかわいいね』と言って私をほめて、私が欲しがるものはほぼ全て買ってくれ、行きたいところにも家族の誰かが連れて行ってくれた。

私が小学校に上がる頃には兄は二人とも大学生で、それぞれバイトをしていたせいか

『奈々に似合う服を見つけたぞ』

かわいらしい服をしょっちゅう買ってきてくれたりもした。

当時兄たちが付き合っていた恋人に選んでもらった物も多かっただろうけれど、私に用意してくれる服は、『お姫様』仕様のものばかりだった。

レースどっさり、りぼんもふんだん。

ため息が出てしまうほどのドレスのような服ばかり。

髪を切ることも許されず、ずっと背中の真ん中あたりで揃えられたストレート。

『奈々は我が家のお姫さまだからな』

両親と兄二人の愛情は、私をお姫様に仕上げる事へと形を変え、それは私が高校を卒業するまで続いた。

そこまで長い間、そんな着せ替え人形に私が甘んじていたのは、家族が喜んでいる様子を見るのが嬉しかったという事と。

家族が私に対して必要以上に気を遣う理由が確かにあったからだ。

私にとっては大したことではないとは言っても、家族、特に母にとっては自分を責めてしまう理由が確かにあって。

母は、私を大切に、お姫様のように育てる事で、私に対する申し訳なさとの折り合いをつけていた。

そんな母の気持ちに早くから気付いていた私は、『お姫様』として育てられる自分を受け入れるしかなかった。

そして、『お姫さま』という言葉に負けないくらいに整った私の容姿は、それはそれは家族の用意した服がよく似合い、すっとした立ち姿は学校中の評判ともなっていた。

面倒くさがりの性格も手伝って、周囲からの期待に抗う事なく、お姫様仕様の服を身にまとい学生生活を過ごしてきた。




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