いきなり王子様
質の高い容姿と、その容姿に見合った服装。
それはもう、お姫様と呼ばれる事に誰も文句を言わない最強な状態で、たとえ私自身がそれを気に入っていないとしても、黙っていればおとなしくてかわいらしい性格だと誤解されていた私には、それを否定する気力すらなかった。
私が見た目通りの『お姫様』である事を、無意識の言葉で願う周囲からの視線は、拷問の鋼のようで、私は少しずつ少しずつ、本心を隠すためだけに生きるようになった。
とりあえず、家族を悲しませないよう。
そして、『お姫様』を求めている彼らの期待を裏切らないように、それだけのためだけに生きてきた。
本来の姿が世間に知られないよう、人間関係を極力広げないように注意しながら、息詰まる毎日を送ってきた。
……とはいっても。
そんな容姿に騙されて、私の周りには複数の男性がいつも現れた。
そして、私の見た目のみを気に入って、私の本当の『男前』な性格を見抜かない男性の向こう側にいる女性たちは自動的に敵となり。
とてもじゃないけれど、男性たちの耳には入れられないひどい言葉を投げられもした。
自分の恋人が私を見かけて好きになったのは、全て私のせいであり、恋人を返せと息巻く女性たちの般若のような顔を見せられる度に、自分の見た目が嫌いになっていった。
『お姫様』のように綺麗な顔、という形容をされがちな私の顔は、それ自体単なる個性なのに。
それをうまく利用できなければ重荷でしかない。
男勝りだと言えば簡単だけど、見た目のギャップがかなりある性格を隠しながら生きてきた私には、綺麗な容姿は、重すぎて抱えきれない荷物だった。
高校を卒業して一人暮らしを始めた途端、家族との距離を上手に作る事もできるようになった。
そして、ようやく自分の意思で深呼吸する事の快適さを堪能できるようになった。