いきなり王子様


その音に振り向くと、甲野くんがシートベルトを外したところで。

一瞬私を見つめた後、すっと伸びた彼の手が、私のシートベルトも外した。

「あ、あの、甲野くん……?」

「俺が何をどうしたいのか知りたいのなら、教えてやるよ」

助手席のシートに体を埋める私を覆うように近づいた甲野くんは、その整った顔を私のすぐ前に寄せると。

「この口が、もう『甲野くん』なんて呼ばないように、こうしてやる」

静かな声が私の耳元に届いたかと思うと、微かに熱い唇が、私のそれと重なった。

「んっ……。こ、こう……」

私の唇を撫でる甲野くんの舌の動きに反応しながら、思わず『甲野くん』とこぼしそうになる。

その瞬間、後頭部が甲野くんの手によってぐっと引き寄せられ、言葉を続ける事ができなくなった。

私の唇にほんの少しだけ生まれた隙間から、甲野くんの舌が差し入れられて、私の舌を探す。

と同時に私の体は甲野くんの体重で押さえつけられて身動きが取れなくなった。

「こ……こう……どうして……」

喘ぐ声の合間にどうにか息をしながら、体を動かそうとしても全くの無駄な行為で、私の体は甲野くんによって支配された。

私の頬に両手をあてて、深いキスを何度も繰り返す甲野くんには、時折熱っぽい吐息と視線を私に向けながらそれを止める気配はまるでなくて。

これまでずっと隠していたような激しい気持ちを私にぶつけてきた。

「言ってみろ……」

荒い吐息の合間の甲野くんの言葉に、遠くなりそうな私の意識は呼び戻される。

「俺の名前、言ってみろ」

「え……?こ、こう……」

「違うだろ」

更に押し付けられる彼の体。彼の手が私の胸元に伸びて、激しく打つ鼓動を確認するかのようにやんわりと動く。

「や……やだっ……」

「思った以上に胸、あるんだな」

「な、何を……」

決して強くはない刺激を与えられただけなのに、甲野くんの手の下にある私の鼓動は更にその動きを加速させていく。



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