分かんない。
分かんない。



涼しくなり始めたこの季節。
また今日も、私と川上さんは
川の近くの河原で
のんびりと座って話をしていた。

「何処の高校行く?」

「内緒だよ!」

さわさわと風が吹く。
それがとても心地よい。
このまま、この人と
一緒にいたいなんて
思ってしまう。
私は早く一之瀬さんを知って
再び一之瀬さんと、
付き合わなければならないのだろう。
だけど、遠い昔に同じような事を
悩んでいたような記憶が蘇る。
微かな記憶、川上さんと
仲良くしていた日々。

(そうだ、私。
前から川上さんの事知ってる…)

それなのに、思い出せない。
悔しさを覚える。悲しくなって、
目のあたりがじんじんと熱を帯びた。

「……神埼、どうしたんだ?
どうして、泣いてるんだ?」

「分かんない。川上さんの事
思い出せそうで思い出せないの。
悔しくて、悲しくて
もう意味わかんなくなっちゃった。
私…
誰の事が好きだったんだっけ。
それすらも分かんないよ!」

泣きじゃくる私に
川上さんは近づいた。

「お前が誰を好きだったか、
過去に沿って、生きなくても
いいんじゃないか?それに、
一之瀬と別れたなら、
いい機会じゃないか。
今、フリーだぜ?
誰を好きになっても、
文句の言い様がないんだ。
今を大事にしようぜ」

川上さんの言葉が嬉しくて、
私が顔を上げると、
川上さんは優しく、私の
頬に伝う涙を拭ってくれた。
本当に優しい手つきだった。




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