《短編》空を泳ぐ魚2
「入れよ。」


「…良い。
大体のことは電話で聞いたし、誠からアンタにお礼言ってくれって言われただけだから。」


その場から足を進めることなく清水は、玄関でそれだけ告げた。


だから、俺なんかに用はない、って?



「入れよ、何もしねぇから!」


「―――ッ!」


瞬間に俺は、その腕を強引に引っ張り、清水を無理やり家の中に入れて。


抵抗していた清水の、少し荒くなった呼吸が聞こえる。



「これ、各教科の先生から出された課題と、反省文の用紙だから。
白石に渡しといて。」


煙草を咥えるように俺は視線を下げ、

そのまま突き出すようにプリントの束を渡した。


ゆっくりと清水は、恐る恐るそれを受け取って。


まるで、俺にビビってるみたいで。


罪悪感ばかりが増していく。



「…悪かったよ…」


女に、しかも真面目に謝ることに慣れてなくて。


煙草の煙を吐き出しながら俺は、その顔を見ることが出来なかった。



「…しっかし、白石にも困ったもんだよなぁ。
セナだって、真面目に進路のこと考えろっつーの。」


ははっと笑い俺は、重苦しい空気を打ち消すように話を変えて。



「お前どーせ、何とでもなるとか思ってんだろうけど―――!」


言いながら顔を向けた瞬間、目に映る光景に言葉が出なくて。


泣きそうな清水の顔が、そこにはあった。



「…もぉさぁ、こーゆーのやめてよ。
アンタには、マジでうんざりしたし。」


「―――ッ!」


ハッと笑い清水は、俺に背中を向けた。


その言葉の意味を探すより先に、バタンとドアの閉まる音が聞こえて。


何が起きてるのか、わからなかった。


俺はちゃんと、謝ったはずだったのに。


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