《短編》空を泳ぐ魚2
「…ごめんね…」


部屋に戻り、熱帯魚に餌をあげながらそう呟く。


まるで、自分自身を憐れんでいるようで。


アンタ達だけは、いつか絶対、逃がしてあげるから。


だから自由になれるその日まで、もう少しだけ待っててね。



真っ暗な部屋の中で窓を少しだけ開け、

その隙間から流れてくる夜風と月明かりだけを頼りにあたしは、煙草を咥えた。


風に流された煙草の煙が、部屋の中を漂いながら消えて。


あたしも、こんな風に消えることが出来たなら。


大学生になんて、なりたくもなかった。


印刷会社だか何だかだって、行きたいとも思わない。


じゃあ、何がしたいのかと問われれば、結局答えなんて見つからなくて。


誰かに助けて欲しかった。


なのに手を伸ばした先には、当たり前に誰も居なくて。


何も掴めないままあたしは、その拳を握り締める。






「父の知り合いの会社に就職します。」


翌日学校で、担任にそれだけ告げた。


こう言えばみんなが喜ぶなら、もぉそれだけで良い。


これで誰にも何も言われなくなるなら、それだけで良いんだ。


そんなあたしなんかの思いとはまるで正反対に、

担任は、涙でも流しそうなほどに喜んでいて。


嬉しそうなその顔に、罪悪感がチクリと胸を刺激した。



相変わらず学校では、みんなから“女王様”だとか言われて。


あたしは、そんなのじゃないのに。


何もかも思い通りの“女王様”なんかじゃないのに。


誰にも必要とされない、ただのちっぽけなだけの人間なのに。


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