《短編》空を泳ぐ魚2
「…今日、担任の先生から電話が掛かってきたぞ?
お前、どーゆーつもりだ?」



思い当たる節は、ありすぎるんだけど。


わざわざ家に電話を掛けてくるくらいだ。


きっと、よっぽどのことだろうけど。



「…進路、決めてないんだってな。」


「―――ッ!」



どいつもこいつも、この話題ばかり。


今まであたしのことなんて、無関心だったくせに。



「…お父さんも、少しばかりお前を甘やかせすぎた。
毎日毎日、バイトだと言って遊び歩いて。」



あたしは遊んでなんかないし、ホントにバイトは真面目にやっている。


自分でお金を稼いでるんだから、それで良いじゃない。



「…短大なり上の学校に行くか、それともお父さんの知り合いの会社に頼むか。
小さな印刷会社だが、フラフラするよりは良い。
どちらか決めて、明日にでも担任の先生に言いなさい。」


「―――ッ!」


あたしの答えを聞くより先に、父親は立ち上がった。


母親と妹は、不安そうにその後姿を追って。


取り残されてしまったあたしだけ、この家の中で赤の他人のようだ。


押しつけられた将来。


受け入れたくもなかった。


机の上に置いていた魚の餌の容器に描かれている熱帯魚ですら、

あたしなんかまるで見てないようで。


唇を噛み締めた。


あたしなんかの将来なんて、ホントは誰も気にも留めてないくせに。


体裁だけで、押し付けるんだ。


心臓を鷲掴まれたほどに、内側から破裂してしまいそうで。


痛すぎて、そして苦しすぎた。

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