ヘヴィノベル
園田先生から託された物
 それ以来、俺は前島美鈴と時々校内で話をするようになった。前島は俺から見れば雲の上の優等生で、これまで話をしてみようなんて思った事もなかった。もちろん彼氏彼女なんて関係じゃないけど、そもそも女子とあまり付き合いのなかった俺には割と新鮮な経験だった。
 それに前島っていつも三つ編みの髪型でダサイってイメージがあったけど、そこは思春期の女子、よく見るとけっこう可愛いとこもあるんだよな。それに優等生と付き合いがあって一番助かるのは学校から出る課題だ。
 夏休みの国語の課題で読書感想文を書かなきゃいけないんだが、読むだけでも一苦労の俺にはどうやったら合格点がもらえるような感想文を書けるのか、見当もつかなかった。課題図書は「あのライトノベルがすげえ!」の2008年総合ランキング1位「古メタルパニック!」だった。
 けど今年は楽勝だ。前島がコツを教えてくれたからだ。感想文の他の部分はどうしようもなくても、「この作品は戦争がいかに悲惨かを描く事によって平和の大切さを訴えた21世紀初の人道主義小説」みたいな事を入れておけば何とか合格点はもらえるんだそうだ。さすがは優等生、目の付け所が違う。
 改めて自分がいかに頭が悪いかを思い知らされた。第1巻を半分ぐらい読んだだけだが、俺はドキドキ、ワクワク、ハラハラしちまって、むしろこの本に描かれている戦闘の描写読むと楽しい気分になっちまうんだよなあ。
 前島も園田先生と気が合ったらしく、俺たちは二人で放課後保健室を訪れて先生と三人で話し込む事が多くなった。もっとも前島と先生の話は次元が高すぎて俺にはついていけない、いや正直全然理解できない事の方が多かったけど。
 そんな日、下校時間になったので帰ろうとして俺が保健室のドアを開けると、ドアの外の廊下に陰険そうな顔つきの社会科の先生が立っているのに出くわした。その中年の教師は明らかにあわてた様子で、たまたまその時前を通りかかっただけというフリをして足早に歩き去ったが、俺にはドアに耳をあてて盗み聞きをしていたとしか思えなかった。
 それを園田先生に告げると先生は一瞬青ざめたように見えたが、すぐに「あはは、気のせいよ」と笑って俺たちを保健室から追い出した。
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