珈琲の香り
濃いエスプレッソを飲んだ気分。

スッキリするはずの気持ちは、一段と重くなる。

蒼君を傷つけ、風花さんのことを知っても、涼さんを諦める気はない。

でも、この気持ちを涼さんにぶつけていいのかわからない。


「――……おい」

「はい……」

「泣くな……」

「え………?」


頬を触ると、涙の跡があった。

涼さんに言われるまで、気がつかなかった。

私……泣いていたんだ。

私が傷つけたのに……

泣く資格なんて、きっとないのに……

蒼君、ごめんね……

これからどうするのか。

それはまだわからない。

はっきりわかること。

それは蒼君を傷つけても、自分の気持ちに正直でいたかった。


「帰るか……」


涼さんはそう言って歩き出す。

ほんの少し、背中を丸めて。

何か重い荷物を背負うように、ゆっくりと……

私がもう少し大人なら……

涼さんの背負う荷物を一緒に持ってあげられるのに…

もっと違った形で、涼さんを好きになれたのに……

そんな思いが、デミカップの底に溜まる澱のように、私の心に沈んでいく。

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