桜が求めた愛の行方
黙って聞いていた三人のうち、
最初に口を開いたのは、崇だった。

『はあ?おまえがそこまで愚か者だったとは
 知らなかった』

賛同するように、蒼真も続けた。

『とりあえず、なんて言って
 さくらちゃんはよく承諾したな』

『だから、だろ?
 男がいればとりあえずは好都合だ』

『おまえ、なめてんのか?!』

零士の声は明かに怒りを含んでいる。
ヤバイと思ったのは崇と蒼真。

『なめられたのは俺だ!』

勇斗は気づかず被害者を続ける。

『ふうん、いいこと聞いた!
 藤木グループのお嬢様は、自分の財産を
 維持してもらう為に政略結婚に快く了承
 して、夫とも愛人ともよろしくやってる
 わけだ。清純そうなのは見かけだけで、
 心は悪魔のような女だな』

『ふざけるな!!』

勇斗が零士に飛び掛かった。
予想していた、崇と蒼真が互いに2人を
押さえつける。

『さくらはそんな女じゃない!』

蒼真に羽交い締めにされながら、
勇斗が叫ぶ。

『どうだか?
 今ごろその男とベッドで笑ってるんじゃ
 ないのか?大丈夫よ、勇斗が私の為に
 ホテルを立て直してくれるからって』

同じく崇に羽交い締めされた零士が
嘲るように言った。

『さくらは朝からずっと家にいる!』

『おまえ監視してるのか?!』

蒼真が驚いて、腕を弛めたのが悪かった。

すかさず、零士に殴りかかろうとしたのを、崇が身を呈して止めた。

『落ちつけよ!!』

怒鳴る崇を無視して零士は続ける。

『その外人は大勢の内の一人かも
 知れないぞ?何しろパリに3年も
 いたんだ、余程あの国の男が気に入ってる んじゃないか?』

勇斗はハッと気づいた。

さくらが3年もパリにいなければならな
かったのは、自分のせいだ。

結婚したい女がいると先に告げたのは俺だ。

見せかけとはいえ、俺は婚約者だった。
それなのに一度も会いに行くことはなかったというのに。

男がいるなんて確かめなかった。
サーっと興奮が冷めていく。

『あのさくらちゃんがそんな女だったとは
 俺も気づけなかったな』

『零士、その位にしとけって!』

蒼真が項垂れる勇斗を顎で差した。

『さくらは……とりあえず、に
 こだわっていた。だから式の前に
 ちゃんとそれを取り消したんだ……
 あいつもそれを喜んでいた……
 なのに……』

『勇斗、なんで信じてやれないんだ?』

『言い訳しないからだ』

一番付き合いの長い零士はふっと笑った。

『おまえの事だ、
 する機会を奪ったんじゃないのか?』

『それは……』

頭に血が上って、怒りのままに抱いた
あの日を冷静に思い出してみる。
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