桜が求めた愛の行方
『なぜだ!』

『だってそれでは、佐伯のおじさまを
 助けられないのでしょ?
 おばさまを悲しませるなんて
 私にはできないわ』

勇斗が苦虫を噛み潰した様な顔のまま黙る。

『ねえ?その彼女はあなたとの結婚に
本気なのよね?』

『当たり前だ』

『なぁんだ、それなら話は簡単じゃない』

『はあ?』

『このまましばらく婚約しておきましょ。
 だって私はまだ学生だし、
 今すぐ結婚しなくてもいいわよね?
 その間におじさまに頑張ってもらって、
 会社が建て直せたら婚約破棄すればいいわ。
 あとはあなたの彼女が、それを理解すれば
 いいだけの事よ』

『そうだがそんな簡単に……
じい様がそれで納得するだろうか?』

『あら、してもらうに決まっているじゃない。
勿論、あなたの協力も必要よ?
それとも他に何かいい案があるかしら?』

勇斗が瞳をまん丸にして、
まじまじと顔をのぞきんできた。

『おまえはそれでいいのか?
おまえにだって……』

『残念だけど、私の婚約を聞いた所で
奪いに来るようなガッツがある人はいないわ。
むしろそんな人が現れたら、
間違いなくその人と逃げてあげる』

勇斗の眉間に皺が寄る。

『おまえ、そんな感じだったか?』

『私はずっとこうよ、あなたが私を知ろうとしなかっただけでしょ?』

腑に落ちない顔をする彼に頷いてみせた。

『…いいだろう、おまえの言う通りにする』

渋々とはいえ、
彼が私の言うことをきくなんて!!
さくらは、自然に口角が上がって
満面の笑みになった。

『信じられない』

声を立てて笑ってしまった。
あの何でも強引な彼が私の言う通りにする、
なんて日がくるなんて。

勇斗がボーッと自分を見ている間に
さくらは、着物の袖口から携帯を出した。

『ねぇ、もう一度言ってくれない?』

『言ってろ』

携帯を持つ手が掴まれて、
胸に抱き寄せられた。
びっくりした手から携帯が落ちる。
更に頭上から聞こえた言葉には、
もっと驚いてしまった。

『ありがとう』

この時お互いに、これまでもっと
相手を知るべきだったのかも知れないと
思っていた。
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