桜が求めた愛の行方
『さくら』

えっ?名前で呼ばれた?!

びっくりして勇斗を見た。

『なまえ……』

『好きな人がいるんだ』

『はい……えっ?!なに?好きな人?!』

照れてそっぽを向く彼をまじまじと観察した。
これまでで今日ほどこの人に驚かされた日は
ないと思う。

『卒業したら彼女と結婚したいと思ってる』

なぜか真剣な彼の瞳を見るのが辛くなった。
裏切られたような気分になるのは
どうしてだろう。
さくらは、心に沸き上がる感情に首を振った。
無理矢理に笑顔を作る。

『そう』

『だからおまえと結婚はできない』

『それで?』

『それでって?』

『だって私とは結婚しない、
だけど佐伯の家を捨てられない、でしょ?』

勇斗がどうするつもりかはわからないけど、
佐伯の家を捨てたりはしない。
それはわかる。
こんな時に自分を優先して逃げ出したりする人ではない。

『ああ。だからおまえから断って欲しい』

『そんなの嫌よ』

さくらは、少し意地悪な気持ちになっていた。
結婚なんて考えていなかったのは本当。
だけど彼が急に遠い存在になってしまうのは
すごく嫌だった。
< 12 / 249 >

この作品をシェア

pagetop