桜が求めた愛の行方

15.戦いの前

さくらには昨夜から今朝にかけての
出来事がすべて夢のようで
目の前で美味しそうにコーヒーを飲む彼が
未だに信じられなかった。

『さくら、そんなに見られると穴があく』

『ごめんなさい』

『謝るとこじゃないだろ、ったく……』

勇斗が甘い笑みをして立ち上がった。

『おいで』

『え?』

ふわりと抱き締められて、知らずに強張って
いた身体から力が抜けた。

髪を撫でる手が安心をくれる。

優しく見つめられて、
心の底から溢れてくる感情を
全身で受け止めた。

いつの間にか……気づいたら
こんなに好きになってしまった。

離れたくない……
ずっと側に居たい……

愛していた、とあの女の人に言っていたのを聞いたとき胸が張り裂けそうだった。

無理に生活を続けようとする日々で
私だって、あなたを愛してる!
何度も心の中で叫んでいた。

もし彼女とやり直したいと言われたら……

彼の背中に腕を回して、ぎゅっと
しがみついた。


『美那が……』

名前を聞いた瞬間さくらの身体が強張った。
安心させるように、彼の手が何度も背中を
上下する。

『あいつはまだ何かすると思う、
 でも、絶対に俺があいつの所に戻る
 ことはないから』

『……本当に私でいいの?』

『まだそんな事を言う?
 その事は今朝までに十分わかってもらえる 様に努力したと思ったが……』

勇斗は短くでも力強く唇を重ねた。

『いいか、二度と言わないからな、
 しっかり覚えておけよ!』

珍しく宣言するような彼の言い方に
さくらは、大きな瞳を開いてじっと
見つめた。

『俺はさくらじゃなきゃ駄目だ!
 本当はずっと前からそうだったのに
 気づかないふりしてたんだ。
 小さい頃からずっとおまえのことが
 好きだ!愛してる!!』

大きな声で宣言すると、赤くなった顔を
片手で隠した。

『あーカッコ悪りぃなー中坊かよ』

『ゆうと……』

『ん?』

『私もずっと好きだったの……』

『あーもー本気で仕事休みたくなってきた』

落ちてきた唇が、今度はゆっくりと
囁くように優しく心をなだめてくれる。

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