桜が求めた愛の行方
『それで、田所はおまえに説明して、
 《休む》そう言っただけなんだな?』

専務の眉がピクピクしている。
これはよくない傾向だ、と真島は思った。

『はい……理由は伺っておりません』

《余計な事は言うな》室長が最後に念押しした言葉を忠実に守る。

『ならば、何故俺がモデルを
 引き受けなければならないのか、も
 もちろん聞いていないんだろう?』

『いえ、それは伺っています』

『ほう?教えてくれ』

『はい!専務がそこら辺のモデルなんかより  ずっと素敵だから、だそうです!!』

『ぶっ』

真顔で言う真島に、勇斗は思わず噴出した。

『それは田所が言ったのか?』

『はい!!
 でも先方の担当者の言葉だと思います』

『わかった、もういい……』

ったく、田所のやつ……
よりによって真島のような男をつけるとは。

だが、田所がこの馬鹿馬鹿しい仕事を
断れないほどの理由といえば
先方からある種の脅しがあったのだろう。

だからって、俺に文句を言われるのが嫌で
逃げ出すか?!

今朝、わざわざさくらに電話をかけてきて
今日の予定と休暇を告げるなんて、
大の大人のする事ではない。

いや、違う。

田所のことだ、
このからくりを調べているに違いない。

それにしても……
 
資料にある、パリコレで活躍するモデル
ってのが引っかかる。
もしそうだとしたら、どうする?

勇斗は、自分の勘が当たらないことを祈った。









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