桜が求めた愛の行方
『あれを覚えているか?』

『あれは!』

重厚な作りの大きな机には、昔、いたずらに色をつけた鷹が我が物顔で鎮座している。

『おまえの企画書を読んでいたら、
 何故かあの鷹を思い出してな』

『まだ持っていたのですか……』

『なんだ、さくらから聞いておらんのか。
 あれはもう何年も藤木家の玄関で
 客を向かえておったのじゃぞ』

『はぁ……』

会長は高らかに笑った。

『あれの価値など知らぬだろうな?』

『はい……いえ!!
 もちろん今ならわかります!』

当時、人間国宝の作品だと知っていても
色をつけるのを止めたかはわからないが。

『おまえの言いたい事は……
 あの鷹と一緒なのだろ?
 価値あるものは変化を遂げても尚、
 人を惹き付ける、特に魅力的な変化を
 すればだ、な?』

幼い自分のいたずらを誉められて、
返答に困ってしまった俺を見て、
会長は更に目尻を下げた。

『要人が改革を始めた時は、
 わしの築いてきたものをわかろうとも
 せず、時代に踊らされているとしか
 思えなんだ。
 だがどうじゃ、あれが改装したトキオは
 今も藤木の筆頭ホテルとして立派に
 君臨しておる。他は風前の灯だというに。
 あれはちゃんとわかっておったのだ』

会長はお茶を一口啜り、遠くを見つめた。
一つの時代を築き上げた大きな存在。
威厳あるその瞳に、後悔の色が見えた。
この人は同じ過ちは繰り返さない。
勇斗はそう感じていた。


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