桜が求めた愛の行方
『どうぞ』
パリにきてからお気に入りになった
カフェオレを出した。
『いただきます』
田所は一口飲むと、目じりを下げた。
こういう顔を見られるから、
美味しいものを作るのをやめられない。
『お嬢様は昔からコーヒーを淹れるのが
とてもお上手でした』
『え?』
『社長はいつも自慢されていましたから』
『やめて……
昔話をしにきた訳ではないのでしょ』
『そうです、しかし……』
『まず教えてくれない?
あなたはなぜそれを知っているの?』
『私が答えたら、
お嬢様も教えていただけますか?』
『いいわ、その代わりそのお嬢様って
言うのはやめて』
『わかりました』
田所はもう一口カフェオレを飲むと、
静かに話し始めた。
『お嬢…こほっ…さくら様
私がこの件を知っているのは
社長から直接、聞いていたからです』
『嘘っ!パパが?!』
『はい……
実はあなたの婚約者は私だったかも
知れないとは、ご存知でしたか?』
彼は柔らかく笑って言った。
『ええ?!』
驚かされる事ばかりで、
さくらは胸を押さえてしまう。
確か田所さんは私より一回りくらい
年上だったかしら?
少し年が離れた夫婦は沢山いるし、
そうだと言われてもおかしくはないけど。
『社長は勇斗様とあなたが結ばれる事を
望んでいいものか悩んでおられました。
もし互いに好きな相手が出来たなら
それを祝福したいとも言ってました』
『そうよね……私が彼と結ばれるのは
望まないわよね』
『それは違います!!
やはりさくら様は誤解している』
『何を?誤解しようがないわ』
『社長はあなたを本当の娘として
愛してこられた。それを疑われたら
社長は浮かばれない!!』
『それはどうかしら?
あんな身近に血を分けた息子がいて、
どうして他人の子を愛せるかしら?』
『これを……』
田所はスーツの胸ポケットから
白い封筒を出した。
『勿論、中は見ていません』
『これは?』
《さくらへ》と書かれた懐かしい字に
震える手で受け取った。
『私は外します、
読み終えられたら声を掛けて下さい』
そう言い残し彼は外に出て行った。