桜が求めた愛の行方
一瞬の間をおき、
勇斗は書類をかき集めて彼女を追いかけた。

『待てよ!!』

レストランを出た所で何とか捕まえる。

『話は終わったわ』

『何も話してないだろ?!』

『あなたの気持ちはわかったから、
 もういいのよ!』

『何がいいんだよ、いいわけないだろ?!』

さくらの頭の向こうに、何事かと心配そうにしている立木の顔が見えた。

勇斗は瞳で大丈夫だと合図すると、
立木は頷いて、フロントへ戻った。

『こんな所で押し問答しても、
 見せ物になるだけだ。上へ行こう』

腕を掴み引きずるようにエレベーターに
向かうと、諦めたのか俺の手を外し彼女は
自分で歩きだした。

さくらはすっかり大人の女性になっていた。

細い体つきは変わらないというか、
前回会った時より痩せたんじゃないか?

小さな顔に優しく弧を描く眉、
どんな事にも興味を示す愛らしく大きな瞳は
昔から変わらない。

男に無条件で護ってやらなければという
本能を呼び起こさせる彼女だが、
その見た目に騙されては痛い目をみるはずだ。
時にとても頑固な面があることを
俺は知っている。

化粧が前と変わったな。
ふっくらとした唇に塗られたルージュは、
男なら誰だって誘われるはず。
抱き寄せて思う存分味わったら
どんな顔をするのだろうか?
と想像しかけて頭を振った。
馬鹿な
幼い頃から彼女を知っているが、
そんな風に考えたことは一度もない。

急いで頭を切り替えた。
それにしても……
まったく話が唐突過ぎて理解に苦しむ。
確かに俺たちは5年も婚約したままだ。
結婚の話が進められてもおかしくはない。
だが、なぜ今なんだ?
さくらが卒業の時だと思っていたのに、
そこはスルーしてこのタイミング?
話が見えないし、絶対に何かあるはずだろ。
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