桜が求めた愛の行方
『上って、ここなの?!』

さくらがスイートのドアの前で入るのを
躊躇っていると強引に中に入れられた。

『自分のマンションはどうしたの?』

『明日はオフだから』

どうりで、おば様が休みに勇斗を訪ねても
会えないと言うわけだ。
っていうか個室に二人って、やっぱり無理!
慌てて外に出ようとした。

『どこへ行く!』

『でっ、でも』

『話は終わってないぞ』

肩を掴まれて、ソファーに座らせられる。

彼は着ていたジャケットを脱ぎ捨て、
向かいに座ると、深い息をついた。

『さあ、順を追って説明してもらおう』

『説明って……』

『まずなぜ突然、結婚の話が決まったんだ?』

『それは……
 あなたは何も言われてないだろうけど、
 私は卒業から常に言われていたのよ?』

『まぁ立場的に、そっちが決める事だろう
 からな』

『ずるいわ』

『っていうか、おまえ。
 そもそも、あの食事会の後
 じい様をどうやって説得した?』

『なにもかも計画通りだったのよ、ね?』

その言葉に勇斗がはっとした。
あなたの結婚はどうなったの?という
私が言外に言いたいことがわかったみたい。

『そうか……』

彼はしばらく黙って考え込んでしまった。

『ねえ?大丈夫?』

『ん?あぁ、
 それにしてもどうして今なんだ?
 おまえはずっとパリにいるつもりだと
 思っていたよ』

『私だってそうしたかったわ。
 でもビザの更新ができなかったのよ』

その意味わかるでしょ?と彼を見る。

『なるほど』

お祖父様がひとつ電話をかければ
そんなことは容易い。
でもそれに素直に従ったのには訳がある。
それを話すわけにはいかないけれど。

こうなる事……
結婚しなければいけない事がわかっていて
さくらは自主的に帰国した。

パパの望みを叶える為に。
自分にできることはそれしかないから。

『だからって、帰国早々結婚なんて
 急すぎるだろ?』

『帰国した暁には必ずするって言う約束で
 留学させてもらったの』

〔5年後には必ず結婚する〕
あの悪夢の食事会の後、説得しようとして
お祖父様にはそう条件を出された。
卒業後フランスへ行く前にも、
それを持ち出され改めて確認させられた上で
留学を許可されたのだった。

佐伯商事が立ち直るのも、
彼が結婚するのも5年あれば充分だと思って
安易に承諾した私は何だったのかしら。
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