桜が求めた愛の行方

『それは最終的な返事と受け取って
 かまわないですね』

『ええ、そうです』

山嵜はいくらか横柄な態度で答えた。
頼まれたのは私の方だぞ。
うちが手を引いたらどうするつもりだ?
藤木グループは、すでにどこかに身売りでもする話があるのか?
勇斗君の必死な説得に応じたのはこちらだと
言うのに、これでは立場が違う。

『あなたとわかり合えなかった事は
 非常に残念ですよ。
 こちらとしてはこんな手段は使いたく
 なかったのですが……』

男の目つきはそれまでのものとは、
明らかに変化した。

『それはどういうことですか?』

山嵜は訝しげに答えた。

『あなたとお話する事はもうない、
 ここから先はお嬢さんにお願いする他
 ないんでね』

山嵜は一瞬なにを言われたのか理解できなかったが、目の前の男の厭らしい顔を見て
驚愕の表情をした。

『わ、わたしに娘はいませんが?』

『今さら何を?ここまで言ってこちらが
 何も知らないとでも思っているなら
 なんておめでたい人だ』

男は一転、面白そうに顔を歪めた。

『そう言われても何の事かわかりかねます』

『しらをきるならどうぞご自由に、
 私は従姉妹と話をするだけですから』

『あの娘に何を話すんだ!!』

咄嗟に叫んで、自分のした自白に
山嵜はたじろいだ。

『くくっ、やはり娘だと認めるのだな』

『それは……』

『さて、何から話すかな……そうだな、
 叔父が実父ではないことから始めて
 藤木とは何の血の繋がりもない事を
 わかってもらわねば。もちろん
 あいつの夫にもそれを話さねば。
 あいつらには、この会社を受け継ぐ資格
 がないことをわからせる。
 それでも何年も従姉妹としてきた
 あいつに親切心から本当の父親の存在を
 教えてやる、なんて筋書きだろうな』

男はその時のお嬢様の顔を想像して
にやりと笑った。
愉快だ、あの意地っ張りな小娘が
悲嘆にくれる姿が目に浮かぶ。

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