桜が求めた愛の行方

『……いったい何が目的なんだ?』

山嵜は声を絞り出すように言った。
それを見て男はますます愉快になる。

『単純なことだ、あの若造を失脚させ
 社長の座には俺がつく!それには
 軽井沢が失敗しなければならない!』

思っていた以上にあの若造は力をつけてきた

社内の空気が、俺に向かい風になってきて
いるのを気づかない振りをする段階は
とうに過ぎている。

ベイサイドの成功は未だに怪しいものだが
少なくともあのイベントは成功していた。

このままでは逆風に吹き飛ばされてしまう
日が来てもおかしくない。

山嵜は苦渋の決断をしなければならない
状況に追い込まれていた。

軽井沢への出店は、勇斗君への義理や彼の
熱意に負けただけじゃない。
純粋にあのホテルのもつ歴史に魅力を
感じたからだ。
寂れようが、古さが目立とうが、
あのホテルには魔法が存在するはずだ。

『私がレストランの出店を止めれば
 あの娘には何もしないんだな?』

『そうしよう』

『わかりました、出店は取り止めます』

『賢い選択ですね、ではこの場でキャンセル
 の連絡をしていただきましょう』

『いま?!』

『そうだ、今すぐに!』

山嵜が携帯を出すのを見て、男は勝利の
余韻に浸った。
これで社長の椅子は間違いないだろう。

あの忌々しい秘書の悔しがる顔を
見られる日も近い。

男は山嵜が苦い顔で、断りの電話をするのを
満面の笑みで見ていた。



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