桜が求めた愛の行方

13.パンドラの箱


昨日の午後、山嵜さんから出された提案に
こちらの要望を加えた新なレストランに
勇斗は満足していた。

軽井沢は必ず復活する。

山嵜さんは、アンジェドスリズィエの名
だけでなく全てを新しくしたいと
提案してきた。

注目のシェフの新たなる挑戦
味にうるさい美食家達の批評は別れるかも
しれないが、山嵜さんの意気込みに
全てを掛ける価値はあると確信している。

しかし……
山嵜さんは最後まで、副社長の事を口に
しなかった。
一度さりげなく問いただした時に、
《お陰でこの事を思いついた》
と言っていたということは何らかの妨害があったことは否定しないと言うことだろう。

田所は、山嵜さんの提案を受けて
完成まで全てシークレットにすると、
頑固に言い、俺や真島の前評判で盛り上げる云々はスパッと切り捨てられた。
しかも、それは良い!と手放しで喜ぶ
山嵜さんによって、更に推し切られて
しまっては何も言えまい。

何かがおかしい。
俺一人が蚊帳の外にいる感じが拭えない。

それは昨日、お礼の電話をした
すみれおばさまの態度からも明らかだ。
山嵜さんを説得してくれた事を告げた時の
曖昧な受け答えは、何もしていないと
言っているようなものだろう?
では、山嵜さんはどうしてあんなに強固な
態度で拒否していたのを、たった半日で
翻したんだ?

さくら……一体、君は何をしたんだ?


『こちらです』

総支配人の立木が案内してきた人に、
勇斗は立ち上がった。

話し合わなければならない人、
そして……
きっと、全ての答えをくれる人は
この人しかいない。



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