桜が求めた愛の行方


ザ・トキオのテラスから見渡せる景色は
すみれにとって懐かしいものだった。

あの庭には二度と足を運ばないと決めてから
だいぶ時が過ぎていた。
いま、改めてこうして眺めると、
なんて心落ち着く素敵な景色なのでしょう。

『お忙しい所をすみませんでした』

『いいえ、どうせ暇だからいいのよ』

年を重ねても、優雅で美しさは
失われていないと友人には言われる
すみれだが、ここ数年の心労は確実に
年齢以上の疲れを顔に刻んでいる。

あの娘は……私のかわいいお姫様は
いつのまにか、森の奥深くの塔に閉じ籠って
私の事を悪い魔女だと言うような瞳で
見るようになってしまった。

彼が…勇斗君がいなければ、顔を合わす事も
できないなんて。
私はどこで間違えてしまったの?

『さくらは元気?』

『はい』

『今日はひょっとして良い報告かしら?』

『えっ?軽井沢の事でしたらすでに電話で
 お話した通りですが……』

すみれは少しがっかりして、彼を見た。

『その様子では、私の早とちりだったわね』

『はい?』

『私もついにおばあちゃんかと思ったのよ』

『あっ!いえ、それはまだっ!』

思いもよらなかった質問に勇斗は
狼狽えた。
そう言えば可能性が無いわけではない。
その事は後でさくらと話をしよう。

『そう。じゃあ話って何かしら?』

『それは……』

散々悩んで決めたにもかかわらず、
どう切り出したらいいのか迷っていた。

< 211 / 249 >

この作品をシェア

pagetop