桜が求めた愛の行方

『これは……』

『半年前、彼女がパリから日本に戻るときに
 全てを打ち明けられて、これの作成を
 頼まれた。君が誤解したあの時は、
 最終確認のサインをもらうために会って  いたんだ』

『どうして今これを?』

『さくらは軽井沢の完成を見届けたら
 君と離婚するつもりだ』

『なんだって!?』

勇斗は思わず立ち上がった。

『これは完成パーティー後、さくらが
 消えた後で、君に渡して欲しいと
 頼まれているものだ』

ニールは座れと片手で促した。
勇斗は力が抜けたように、腰をおろした。

『消える?どこへ?』

『その事はまだ詳しく聞いていない』

『さくらは何故こんな事を?』

『始めから……パリに留学したときから
 彼女は藤木を棄てるもりだった。
 本来、自分のものでないものを継承する
 わけにはいかないと言っていた』

『そんな馬鹿な……血の繋がりがなくとも
 さくらはれっきとした要人さんの娘だ』

勇斗は訳がわからないと首を振った。

真実が明らかになった所で、
俺とさくらの関係が変わるとは思っても
みなかった。

なぜ?何故さくらは離婚なんて?

『さくらは君を愛してる…それは深く。
 だから、僕は弁護士バッチを棄てる覚悟で
 君にこれを見せることにしたんだ』

『おまえ……』

『いいか、さくらをどこにも行かせるなよ!
 もし、彼女がパリに独りでいるのを
 見かけたら、もう二度と日本には
 帰らせないからな!』

ニールの言い方がひっかかり、
勇斗はハッと彼を見た。

『おまえまさか?!』

『いいや、僕はまだゲイだよ。
 彼女が君を愛してる間はね……』

『おまえ………』

黙って書類を返した勇斗を
ニールは祈るような気持ちで見送った。

ベイビーとの約束は明日……
それまでに決着をつけてくれよ……


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