桜が求めた愛の行方
『そこでなにをしている?!』

『父さん!』

勇斗は驚いて振り向いた。

『いえ、何も……』

『手に持っているのはなんだ?』

『これは……』

とっさに母子手帳を後ろ手に隠した。

俺はなんの疑問も感じず、これまでずっと
幸せな人生を送ってきた。
ただ、これに関してはずっと記憶の片隅で
疑問としてのこっていた。

確か小学校四年生位だったと思う……
これを持ってくるよう学校から言われた
俺に、母さんはニューヨークだったから
これは持ってないと言った。

でもそのあとすぐ、俺は偶然これを
見つけてしまった。

あの時、子供だった俺は母さんがないと
言ったのは単純に探し忘れていたのか、
中をパラパラと見て、どうせ体重とか
そんな事を気にしてかと思って深く
気に止めなかった。

ただ……表紙の裏を見て、子の名前の欄
に母さんの字で書かれた《優人》。
何故名前の漢字が違うのか、
それは疑問として記憶の片隅に残った。

今はそれがどうしてか、わかる。
父親から一字取ろうとしたに違いない。
でき婚だとばかり思っていた両親の結婚は
まったく違うものだったんだ。

息子の持っているものを見て、
誠《まこと》は、ついに来るべき日が
来たのだと覚悟を決めた。

『お母さんを問い詰めるのはやめなさい』

そうさ、もちろん父も承知していなければ
今の俺は藤木の人間であるはずがない。

『どうして?何を問い詰めると?』

『勇斗!』

『父さんは知っているんですね。
 これの意味を、ここにある真実を!』

『真実はおまえは私の息子だという以外
 何もない!』

『知りたい事はお母さんに聞くしかない』

『お母さんを苦しめる事は許さない!
 私が強引にしてきた事でお母さんは
 もう充分苦しんだ、おまえに責められ
 たら、壊れてしまう……
 それを見ればわかるだろう……』

『わかりません!俺は』

『勇斗!おまえは私の息子だ。
 その名を与えたのは私だ。
 おまえは優しいだけの人ではない。
 斗という字は闘うの略字として使われる
 ことがある。勇敢に闘うことができる
 おまえは正にそういう男に成長した』

誠は勇斗の肩を掴むと、強く揺さぶった。

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