桜が求めた愛の行方
『父さん…』

『このことは一度だけ藤木と二人だけで
 話し合った。お互い子供の幸せしか
 考えなかった…それがすべてだ。
 いいか、何度でも言う!!
 勇斗、おまえは私の息子だ!』

誠は必死に訴えた。
息子を失う訳にはいかない。
例え血の繋がりがなくとも、勇斗は間違い
なく私の息子だ。

産声を上げた彼を、一番最初に抱いたのは
美咲ではなく私だ。
夜中に高熱を出したのを抱えて病院へ
走ったのも、自転車の乗りかたを教えた
のも、藤木ではない、この私だ。
彼がサッカーで初ゴールを決めたときに
ガッツポーズで観客席を見て探したのは
私の顔だった。

勇斗は間違いなく私の誇りであり希望だ。
これまでも……そしてこれからも。

『でも俺は藤木の人間になった!』

勇斗は父の手を振りほどいて、吐き捨てるように叫んだ。

『それは……』

『初めから決められていた事だった!
 佐伯は真斗のものだから』

『違う!!』

『何が!』

感情の激しいぶつかり合いに
にらみ合う二人だが、その瞳の奥は
互いがこれまで築いてきたものにすがろうと
必死にもがいていた。

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