桜が求めた愛の行方
『呆れた……結婚式は来週だよ?』

『言われなくてもわかってる』

『ふうーん』

そろそろ弟の生意気な態度に兄の威厳を
見せるべきだろう。

『まさ…』

『指輪はどこ?』

『なにっ?!』

『指輪だよ、婚約指輪!
 そろそろ貰っていると思ったお母さんは
 この1ヶ月、何度もさくねえに
 指輪を見せて欲しいと頼んでいたよ。
 息子がどんな指輪を贈ったのか、
 わくわくしてね』

『まずい……』

眠気がふっ飛び、顔から血の気が引いていく。
勝ち誇った顔の真斗はさらに続けた。

『さくねえは何て言ってるか、
 もちろん兄さんは知ってるよね?』

『うっ』

なぜそれに気づかなかったのだろう!
《私に構わなくていいから》
という彼女の言葉に甘えて、
結婚に関する一切に関わっていない。

彼女が好きなようにすればいいと、
たかをくくっていた。

そういえば先日のパーティで、
やけに指輪だけ豪華な感じがしたのは
そういう事だったのか!
むろん、母さんがそれに騙される訳ない。

『……あいつは何て?』

真斗は勿体ぶって言った。

『僕は母さんからしか聞いてないよ、いい?

《勿体なくてつけられない!ですって、
 どんなに素敵なものかしらねぇ?真斗?》

 だってさ、兄さん』

『あぅっ』

今すぐ母が思う素敵な指輪が手に入るなら
全財産を出しても惜しくない。

『僕はもう一分だって、お母さんの愚痴を
 聞くつもりはないよ』

『ああ……』

『さっさと指輪を買って、さくねえが決めた
 ドレスを撤回させるんだね』

『ドレスだと?!』

思わず声が裏返りそうになる。
それは男が口を出す領域じゃないはずだろ?
つい、すがるように弟を見てしまった。

『兄さんは自分の彼女が綺麗になるの
 見たくないの?いくら時間がなくて
 既製品から選ばなくてはいけないからっ   て、あんなコテコテの母さんの趣味の
 ドレスにすることはないよ』

『見たのか?』

『もちろんさ、
 誰が兄さんの衣装を試着させられたと?』

ここに至ってはぐうの音も出なかった。

『ついでに言っておくけど、
 僕は自分の結婚式であれは絶対に着ないね』

『まじか……』

どうやら自分は結婚式というものを
甘くみていたらしい。

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