桜が求めた愛の行方

『はい、ああ、大丈夫。
 わかった、直ぐに向かおう。
 あっ!今どこにいる?
 それならば車を回してくれないか? 
 場所は目黒〇丁目※※※ああ、頼む』

さくらは、彼が携帯をポケットにしまうのをボーッと見ていた。

『悪い、会社に戻られなけばならない』

まだ、さっきの状況から立ち直れない。

『おい、聞いてるか?』

彼がくすりと笑って指の背で頬を撫でる。

『え、ええ』

『ここにおまえを置いてはいけない。
 田所が近くにいるから、俺はそれで行く。
 おまえは俺の車を使うといい』

勇斗がポケットからキーを出した。
それを見てようやく正気に戻れた。

『いいの?』

『免許証はあるんだろ?』

『もちろんよ』

『危ない運転するなよ?』

『わかってるわ』

『店には話を通してある。
 たぶんおまえの気に入るものが
 見つかるはずだ』

『本当に私が決めていいの?』

『当たり前だ、おまえの好きにしろって
 言っただろ?』

彼はそう言いながら通りの先に来た
黒の高級車に手をあげた。

『いいか、俺はあの衣装を着ないし、
 おまえは自分が着たいものを着るんだ』

『でもおばさまが……』

田所の車が横付けされる。

『さくら』

甘く包み込むように呼ばれて、
ハッと彼を見る。

愛しむように頬に口付けが落とされた。

『綺麗な花嫁だと自慢させてくれ』

あの蕩ける笑みを見せると、
彼は車に乗って行ってしまった。

さくらは、車が見えなくなってからようやく、止めていた息を吐き出した。

胸に手を当ててみる。
大丈夫、なんとか生きてるわ。

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