桜が求めた愛の行方

『うーん、こんなに悩んだのは初めてよ。
 ごめんなさいね、頼りないアドバイザーで』

京子さんの声に、ハッと我に返る。

『こちらこそ、ごめんなさい。
 決められないのは私なんですから』

物思いにふけっていたのを誤魔化した。

京子さんは額に皺を作って最終的に
2着に絞ったドレスとにらめっこしている。

ひとつはオーガンジーがいくえにも重ねられ、
薔薇のバックコサージュが素敵な
後ろ姿を魅せる正統派のAラインドレス。

もうひとつは、
オフショルダーで胸元に散りばめられた
パールが美しく、ロングトレーンが素敵な
クラッシックなマーメイドドレス。

『どっちも買っちゃえば?』

『えっ?!』

声に振り向くと、入り口で壁に寄りかかるようにして腕を組んだ真斗が立っていた。

佐伯真斗《さえきまさと》も兄に劣らず
美しい顔立ちをしている。

長身で手足の長い所や甘いマスクは、
彼もまた神様に祝福された証。
兄弟の違いは、髪が真斗はウェーブのある
茶色の髪で、瞳が母性本能をくすぐる
子犬のような瞳をしている。

それが彼の纏う気を柔らかくし、
惹き付けられる誰もが、
彼を愛さずにはいられなくする。
< 49 / 249 >

この作品をシェア

pagetop