桜が求めた愛の行方
春休みも終わりに近づいた週末、
さくらは朝早くから叩き起こされて、
ようやく現実を知った。

『お嬢様、早くお支度を!!』

『なに?どうしたのよ?』

『どうしたの、じゃありませんよ!
 今日はご結納でございましょ!!』

『はっ?何言ってるの?』

夢よ、これは夢だわ。
剥がされたシーツをかぶるが、
またはがされる。

『お嬢様、私より先に呆けたら困りますよ』

子どもの頃からこの家の住み込み家政婦としているナミに哀れみの瞳を向けられる。

『だって!?』

『ささっ!早くしないと、私が奥様に叱られて しまいます!』

あれよあれよと言う間に急き立てられ、
着付けをされてしまう。
さくらは、されるがままになりながら、
呆気にとられて反論の言葉すら浮かばなかった。

『ねえ、お母様は私が留学したいって言った
 のをまだ怒っているの?』

『まったくお嬢様は……』

出来上がりに満足したナミが瞳に涙を
浮かべた。

『ご主人様がどんなにこの日を見たかったで  しょうか……』

『やだ!やめてよ!』

『さっ、早く行ってください』

『ちょっと!!』

車に無理矢理乗せらて、お祖父様の秘書が

《まず今日の所は内輪だけの食事会ですが、
後日改めまして、盛大な婚約披露パーティー
が開かれますので》

と言っている。

『わかった、私の負けよ。
 そこまでして私を日本に留めたいならば、
 留学は諦めるわ!』

それでこの馬鹿らしい騒ぎは終わるのよね。
どうせホテルでお祖父様と食事をするだけでしょ。

『何もここまでしなくていいのに』

『さくら、あなたって人は……』

隣で母がため息をついたのを無視して、
窓の外に流れる景色を見ていた。

車がホテルに着くと、信じられないことに
エントランスにムッとした顔の佐伯勇斗が
ビシッと決めたスーツ姿で立っていた。

『やっ、嘘よ……こんなの信じない……』

そこから先、頭の中は《信じられない》
それだけになった。

普段なら楽しい佐伯家との食事も、
何を食べても味がわからない。
お祖父様に何か聞かれて上の空で答えた。

『面白い冗談だ』

お祖父様が笑い、皆もつられるように
笑っている。

ぼんやりと着物の桜の花びらを数えたりしているうちに、いつのまにか時間が過ぎていた。
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