桜が求めた愛の行方
『おい』

呼ばれた方をチラリと見た。

おまえ、あんた、おい……記憶の限り彼は私を名前で呼んだことはない。
だから私も彼を名前で呼ばない。

幼い頃、彼は私に意地悪だった。
お気に入りの緑色のワンピースをカエルみたいだと笑ったり、大事にしていたテディベアを
黒いペンでパンダにしてしまったり。

『悪いが結婚するつもりはない』

でも年々素敵に成長していき、
私は会うたびにどんな態度をとっていいのか、わからなくなっていた。

避ける事はないけれど、高校生の頃はいつも私に怒っているような気がしたし。

『もしかして傷ついたか?』

『なにが?あれっ?みんなは?』

周りを見ると、食事会は終わり二人きりだ。

『聞いてなかったのか!』

ぶすっとした顔の彼に、顎を掴まれて自分の方に向けさせられた。

『結婚するつもりはないと言ったんだ!』

長い指が背けるを許さず、
言い聞かせるように瞳を見つめられる。

その瞳を見つめ返しようやくなにを
言われたのかわかると、
突然、頭の中の悪夢が鮮明な現実となった。

呆然とした中でグツグツと煮えたぎっていた
怒りがついに爆発した。

『私が望んでこうなったと思っているの?!』

彼の瞳に負けぬよう精一杯、
挑戦的に見返した。

『私だって!!
 あなたとなんか結婚するつもりはない    わよ!!』

自分が望んでこんな事になっていると
思われていたなんて、悔しい!!
行き場のなかった怒りも込めて
彼の胸を叩いた。

『冗談だと思っていたのに!
 どうしてこんな事になるのよ!!
 あなたはどうしてここにいるの!』

『おいっ、ちょっと待て!落ち着けよ、
 頼む、泣くのは勘弁してくれ!』

彼が狼狽えるから、余計に怒りが増した。

『泣いてなんかないわ!』

瞳が揺れるのは涙なんかじゃないはずよ!

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