桜が求めた愛の行方

5.暗黒の者たち

男は隣に横たわる若い女の滑らかな背中を
撫で上げながら、今朝の妻を思い出した。

老いとは残酷なものだ。
ほんの数年前までは同じだったというに。

男はもうすぐ40になる。
人生も半分……折り返し地点に来てしまった

だが、これからだ!
男盛りはこれからと言えよう
これからもう一度人生を謳歌するんだ

それには金がいる

叔父が亡くなった頃の自分とは違う
あの頃はまだ若く、自分の立場に甘んじて
危機をわかっていなかった。

だが、息子を亡くしたクソジジイを操る事は
容易かった筈だ……

それがどうしてこうなった?

返す返すも結婚を早まった事を
後悔せずにはいられない
あの忌々しい従姉妹と結婚しておけば
今ごろはこんな無駄な事をせずに済んだのに

『それで?あのお嬢様はどうした?』

『平静を装っていたけど、鍵を落としたり
 してかなり動揺していたと思うわ』

『あの若造にはいつ会うつもりだ?』

『まだよ、まずは私をモデルとして
 あの企画に入れてもらわないと』

『その件はすでに手配済みだ』

『仕事が早いのね』

女はうつ伏せのままにっこりと笑った。
身体を反転させて、
ねだるように男の唇に指を滑らせる。
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