花嫁に読むラブレター
――わたしのことをよく理解しているだけ?
ええ、ええ、そりゃあ十年以上も一緒に過ごしていればそうでしょうよ。だからこそ、そこは無視してくれるのが親切ってものじゃない? なんてことでもステイルは不満を口にする。へんなところで真面目すぎるのよ!
マイアは丘を大股で下っていく。
湖のきらきらした景色を脳裏に浮かべようとしても、ステイルの皮肉たっぷりの表情が消えてくれない。
今日は、月に一度街から読み書きを教えてくれる先生が訪ねに来てくれていた日。マイアが飛び出す前も、ちょうど授業の最中だった。
人が生きていく上で、読み書きは最低限必要だとされ、孤児が集まる施設にも先生を呼ぶことができるよう国が取り計らってくれているのだ。一般家庭の子供のように、学校に通うことは経済的にも戸籍がないという理由もあって、無理だ。国の歴史を知るのも計算を覚えるのも、国から支給されている古本を自分らで読み、独学で覚えていくしかない。読み書きだけでも教えてもらえるのは、恵まれている、とマリーおばさんはいつものように鼻息を荒くして言う。