ショコラ SideStory
「そうでしょうね。それでも手伝わせたんなら麻由ちゃんって子は器用なんだわ。詩子なんか未だにケーキには触らせてもらえないって話よ?」
何度もお盆を持って行ったり来たりしている詩子に目をやる。
あの子不器用だからなぁ。
悔しい思いをしたりもしてるんだろう。
「フルーツの切り方で怒られまくったって笑ってましたけどね。詩子ちゃんに言ったら怒られるから内緒ですよ、康子さん」
「そうね。流石にプライドに関わるわよ。あの子一応調理師免許もってんのよ?」
私達に痛ましそうな視線を向けられて、詩子は変な顔をして通り過ぎていく。
「そうなんだ、詩子ちゃんのフラッペ美味しかったもんなぁ。あ、その時に麻由が言ってたんですよ、親父さんの元奥さんは幸せだって」
「幸せって? なんで?」
なんでその時に私の話題なんか出る訳?
「詳しくは俺にも教えてくれないんですけどね。親父さんが作るケーキは全て奥さんへの愛でできてるって言ってました」
「ケーキ……ねぇ、それっていつの話?」
「確か、去年のクリスマスの1カ月前くらいだったかな。試作品作ってたみたいです、クリスマス用に。毎年作ってるって言ってましたよ」